大逆事件100年 関連本が続々 <本よみうり堂>
変革の理想に生きた先人 http://bit.ly/e2F43p
明治天皇の暗殺を企てたとして、幸徳秋水ら無政府主義者、社会主義者が一斉検挙された大逆事件から100年が過ぎた。(待田晋哉)
事件と関わりがあった人物を題材とした小説や評伝が、相次いでいる。閉塞感が漂う現代、近代史の曲がり角となった事件が注目を集める。 大逆事件は、日露戦争の終結から5年後の1910年(明治43年)に起きた。26人が起訴、翌11年に幸徳ら12人が死刑となり、後に警視庁に特別高等警察が置かれた。明治日本が国力を蓄えロシアに勝ったのが「光」ならば、「影」と言える事件だ。
文学作品で近年、大逆事件を独自にとらえ直したのは、一昨年の辻原登『許されざる者』(毎日新聞社)だった。事件で処刑された和歌山県新宮出身の医師、大石誠之助をモデルにした主人公を描く。 史実を踏まえた架空の物語の体裁を取りながら、地域医療に献身し恋愛や政治に熱中する医師の姿ははつらつとしている。この年は偶然、日露戦争を扱った司馬遼太郎『坂の上の雲』も、NHKがドラマの第1部の放送を始めた。
辻原さんは「明治時代は天皇を立憲君主にいただき、がむしゃらに列強入りを目指す体制。その中で歴史を作りかえようと大逆事件に殉じた人々の存在は、国家や人間について真摯に考えさせる」と語る。「事件を単に『国家/反権力』ととらえるのでは、理解が深まらない。明治国家を作り日露戦争を遂行する立場、大逆事件で裁かれる立場に分かれたが、それぞれ互いに理想を持って生きた」
大逆事件後、社会主義運動は「冬の時代」を迎える。だが厳しい状況でも輝きを失わない者たちがいた。幸徳秋水の盟友だった堺利彦は事件当時、監獄にいて難を逃れている。
昨年出た黒岩比佐子『パンとペン』(講談社)は、彼が事件後に編集プロダクションで翻訳会社「売文社」を設立し、粘り強く生きた姿を追った。
中森明夫『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮社)は、無政府主義者で、堺らと同じく事件を免れたが後の関東大震災の混乱時に殺害された大杉栄の霊が17歳の少年に住み着く小説。
演劇界でも、大杉や伊藤野枝ら恋と革命、芸術に生きた男女の群像劇『美しきものの伝説』(宮本研・作)が昨年末に蜷川幸雄主宰の劇団「さいたまネクスト・シアター」、先月は西川信廣演出により文学座で再演が相次いだ。 大正時代はベルエポックだったのか? 安住邦男
また、高澤秀次『文学者たちの大逆事件と韓国併合』(平凡社新書)、先月には、黒川創『きれいな風貌』(新潮社)が刊行された。大石誠之助のおいで、東京・神田駿河台の文化学院を創設した西村伊作の評伝だ。おじの死を乗り越え、娘に理想の教育を授けたいと戦前に類のない男女共学の学校設立に私財を投じる姿は型破りで広々とした気分に誘う。

パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い |
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黒岩比佐子/著 講談社/ 2520円 |
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アナーキー・イン・ザ・JP |
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中森明夫/著 新潮社/ 1680円 |
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文学者たちの大逆事件と韓国併合 |
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高澤秀次/著 平凡社/ 798円 |
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きれいな風貌 西村伊作伝 |
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黒川創/著 新潮社/ 2415円 |
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大逆事件 - 晴走雨読
『大逆事件 死と生の群像』(田中伸尚著 岩波書店 2010年刊)
●無告の人々、もう一つの現実 田村元彦 西南学院大准教授かつて伊藤野枝が故郷である福岡今宿の集落の自立自尊の暮らしを描いた文章(「無政府の事実」)から受けとるものと響きあっている。無政府共産は実現不可能な空想ではなく、私の生(うま)れた村はずっとそれをやってきた、と野枝は言う。何でもお上頼みの「陳情主義」ではない相互扶助のコミュニティーが「新しい公共」や「まちづくり」といった標語の下に新たな課題として再発見されている現在、アナキズムを暴力的なテロリズムと故意に同一視して、〈もう一つの世界〉の可能性を遮断してしまった百年前の事件(韓国併合も含む)によってわれわれが失ってしまったものは大きい。
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