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2010年12月 7日 (火)

NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」第2部・第1回を見て 梅田 正己

歴史の文脈を無視した「歴史ドラマ」
    梅田 正己(書籍編集者。著書『これだけは知っておきたい近代日本の戦争』他)

  さる12月5日放送の「坂の上の雲」第2部第1回を見ました。
二つほど、大きく引っかかった点があります。
一つは、伊藤博文の描き方、いま一つが義和団戦争の扱いです。

  伊藤は昨年の第1部を受けて、やはり非戦(避戦)平和主義者でした。
しかも、昨年は受身の軟弱な(?)平和主義者でしたが、今回は自らロシアへ出向いて日露協商条約の締結を画策する、アクティヴな「行動する平和主義者」です。
 このような伊藤に焦点を当てることによって、ドラマは「明治日本の平和主義」を強調したわけです。
しかし、今の私にはこの問題に踏み込む用意はありませんので、もう一つの問題、19世紀末の義和団戦争について述べることにします。

  義和団についての説明の中で、「拳匪」という文字が画面に写されました。
「拳」の字は、義和団がもともと武術結社が集まって生まれたことから用いられたのですが、「匪」はもちろん「匪賊」を意味します。「拳匪」とは、義和団に敵対する勢力が、義和団をさげすんで使った呼称です。
 当時の日本では、そのように言ったのでしょう。しかし100年がたった現在、当時使っていたからといって、差別語を何の説明もなく無造作に使っていいものでしょうか。

 義和団の運動は、1898年、山東省でのドイツの侵略に対する反発から始まり、翌99年から1900年にかけ、北京、天津を含む華北一帯に燃え広がりました。
スローガンは「扶清滅洋」――清国を扶(たす)け、西洋を滅ぼす、です。義和団運動はつまり、反帝国主義民族闘争でした。

  これに対し、列強8ヵ国はその鎮圧のため出兵します。独、英、米、仏、露、伊、オーストリア、それに日本の連合軍です。
帝国主義国連合軍は総勢7万、うち2万2千を日本軍が占めていました。
清国の首都・北京に乱入した連合軍は、ドラマにもあったように、破壊と略奪の限りを尽くしました。
  さらに戦後、連合軍に占領された北京で、清国は北京議定書により、連合国に対し、何十年かかかっても払えないような天文学的な賠償金を課されることになります。
あわせて北京、天津地区での外国軍の駐兵権を認めさせられました。
こうして中国は、以後半世紀にわたり、半植民地状態に置かれることになります。

 この義和団戦争は、日本では今でも「北清事変」と呼ばれ、何となく影の薄い存在ですが、実は東北アジア近代史の上で重要な画期となった事件でした。
そしてその直接のきっかけをつくったのが、日本だったのです。

 日清戦争で清国に勝利した日本は、下関条約で台湾を取得するとともに、賠償金2億両を手に入れます。当時の日本の国家予算の約4倍、莫大な賠償金です。
このような大金は、清国の金庫にはありません。では、どうしたか。
清国は、欧米列強から借りたのです。もちろん、「担保・抵当」を入れてのことです。

 以後、1895年から99年にかけ、帝国主義諸国による侵食がいっせいに始まります。重要な土地・港湾の半永久の租借、鉄道の敷設を軸とする利権の争奪戦です。
新興国・日本に敗れたことから、「眠れる獅子」が容易に目覚めないことを知った列強は、遠慮会釈なしに中国に襲いかかったのです。

 こうした帝国主義諸国の侵食・侵略に対して中国民衆が立ち上がったのが、義和団戦争でした。
以上のような「歴史の文脈」を押さえていれば、民衆の抵抗を「拳匪」の二文字で片付けることは出来なかったはずです。
まして、北京に乗り込んだ騎兵隊の隊長・秋山好古の「ヒューマニズム」の見せ場として気軽に使うことなど。

  ところで、今回のドラマの中に、英国で再会した秋山真之と広瀬武夫が、英国海軍士官の晩餐会(?)に招かれる場面がありました。
そこで、英国士官が、日本はせいぜい生糸を輸出して金を稼ぎ、英国製軍艦を買ってくれ、と冗談めかして言ったのに対し、真之が憤然としてこう言い返します。
――生糸を売った金じゃない。日本国民が爪に火をともすようにして貯めた金で買う軍艦なのだ。

 しかし、これは事実に反しています。
日清戦後の日本政府が軍拡のために増税に取りかかったのは確かですが、しかしこのとき英国に支払った資金の出所は国税ではありません。
先に日本は清国から2億両の賠償金を得たと書きましたが、その賠償金を日本は3800万ポンドの英貨で受け取り、その半分近い1750万ポンドを投入して、戦艦6隻を含む軍艦を英国で建造したのです。

 早くも第1回にして「歴史の文脈」を無視したドラマづくり、今後の展開が危ぶまれます。(了)
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Umeda1

梅田 正己氏の著作『これだけは知っておきたい近代日本の戦争』でさらに詳しく言及されていますのでご覧ください。→こちら
立ち読みコーナー

参考:書評(世に倦む日々)
高文研 『日本・中国・韓国共同研究-未来をひらく歴史』(1)(2)(3)
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日中韓3国共通歴史教材委員会『未来をひらく歴史』

[梅田正己世相論評]

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